団地のこと

清瀬, 東京
Kiyose, Tokyo

先日、是枝裕和監督の映画『海よりもまだ深く』をBSで観た。2016年に公開された映画で、団地を舞台に、売れない小説家の主人公(阿部寛さん)と、団地に一人住まいのその母親(樹木希林さん)、別れた元妻とその息子の家族の物語である。ロケ地の一つに、私の実家がある東京・清瀬市の旭が丘団地(昭和40年代に建設)が使われているので気になっていた。

しかも、6年ほど前に実家を訪れた際、その帰り道に偶然にも映画の撮影現場に遭遇していたのである。
その時は何の撮影か分からず、準備をしているスタッフを横目に、バス停に向かって歩いていたところ、白い帽子を被った女優さんと思しき人が椅子に腰かけていたのを憶えている。今から思えば、樹木希林さんに間違いないのだが、当時は分からなかった。

遠巻きに撮影を見ている人たちがいたので、一緒に見物していると、しばらくして本番の撮影が始まった。私が見たのは、主人公が母親と連れ立って公園の脇の道を歩いているシーンだった。

ロケ地は団地だけでなく、近隣のあちこちが使われていた。
昔に比べ、街は色々と変わってしまったが、映画では昔からある店が店名もそのまま登場していたので嬉しかった。
その一つが、商店街にある洋菓子店のホルン。子供の頃は、ケーキといえばその店だった。誕生ケーキやクリスマスケーキを買ってもらったことを憶えている。しかし、そのホルンも最近店を閉じてしまった。
清瀬駅の階段の途中にある立ち食いそば屋。学生の頃、学校帰りに食べた。
主人公の姉が勤めている和菓子屋の新杵。父がよく買ってきていた店である。

それから、旭が丘団地には賃貸と分譲があって、それがそのまま映画の設定でも使われていた。
主人公の母親が住むのは賃貸で、橋爪功さんの演じる音楽の先生は分譲に住んでいるという設定なのである。驚いたのは、母親の住む棟や公園脇の道のシーンは実際の賃貸地区で撮影されており、分譲に住む先生の家から母親が帰るシーンでは分譲地区で撮影されていたのである。これは住人しか分からない、滅茶苦茶ローカルな設定である。
この映画に出てくる清瀬のシーンは、だいたいどの場所で、どういう方向に撮っているかが分かる。棟の号数も、実際の番号をそのまま使っていたと思う。
架空の物語に、見慣れた風景や現実の設定がそのまま出てくるのが、なんとも不思議な気がした。

ちなみに、タコの滑り台のある公園や給水塔のシーンは、別の団地で撮影されたものだと思う。
昔は旭が丘団地にも、チューリップや貝殻の形をした滑り台があちこちにあったのだが、一つまた一つと姿を消していった。バラの形をした滑り台だけが今でも残っている(下の写真)。

給水塔は団地の中で最も高い建築物で、団地が5階建てなのに対し、給水塔はその倍くらいの高さがあったと思う。

子供時代を昭和40年代に建設された団地で過ごした人にとって、滑り台や給水塔は団地のシンボル的な存在なのかもしれない。
是枝監督は、9歳から28歳まで旭が丘団地に住んでいたそうである。
私は、3歳から30代半ばまで住んでいた。今も実家があるので、たまに訪れている。







(最初の2枚は映画の撮影を見かけたときのもので2014年に撮影。次の7枚は2012年、最後の1枚は2019年に撮影。)